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Channel: 水中カメラマンのデスクワークな日々
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4K映像制作は映像業界の救世主になるのか?

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ちょっと久しぶりに技術ネタの長文を書いてみました。
映像業界内向けに書いているので、関心無い方は飛ばしてください。

以下、本題。

アクアジオグラフィックで最初の4Kムービーカメラ RED ONE を導入したのが、2009年5月でした。
それから4年後の昨年になって、ようやく「4K元年」といわれるようになり、RED ONE/RED EPIC以外の4Kカメラも市販され、私のSNS友達や取引き先も4Kカメラを導入したという話がいろいろ聞こえてくるようになりました。

ただ、4Kカメラを導入したはいいけれど、未だ不況下にあえいでいる映像業界の救世主になってくれるのでしょうか?
まだまだ業界内では、4Kに対する疑問の声も多いのも事実です。

昨年12月にテレビ番組制作者向けに行われた「4K・8Kコンテンツ制作者ミーティング」に参加して来ました。
詳しい内容は、AV Watch「14年の4K試験放送目前に見えてきた、番組制作の課題とは」
にレポートが出ているのでこちらをご覧ください。

4Kカメラで撮影している人が皆さんが口を揃えて言う事は「フォーカス(ピント)がわからない。」です。
記録は4KでもファインダーやLCDは、HD というのが今の現状です。フォーカスアシスト機能も各製品で工夫をされているようですが、どれも完璧とはいえません。

そして、4Kカメラは全てSSD等のメディアへのデータ記録です。その記録データ量が膨大でバックアップに非常に大変なのです。
EPICの場合、128GBのSSDに約20分(5K60P)の収録です。1時間撮れば400GB。これをその日のうちにHDDへバックアップしなければなりません。
SONYのRAWデータはもっと大変です。たしか512GBのSSDでも約30分(4K60P)だった?と思います。XAVC記録でEPICのR3Dとほぼ同等。
TBSの番組「世界遺産」のロケでは、1日約3TBの撮影データ量だとか。

SDからHD(ハイビジョン)への移行の際は、機器とテープが単純にHD対応に置き換わっただけで、労力が増えたわけではありませんでした。
しかし、HDから4Kへの移行の際の、データ容量の増大に伴う労力の増大は相当なものです。
未だにテープレス化へ移行しきれていない放送業界では、この点が普及への大きな障壁になる気がします。

「4K・8Kコンテンツ制作者ミーティング」に参加して最も感じた事は、
「テレビ放送の分野での4K番組制作はあくまでも試験放送のレベルで細々と行われて行くレベルでは?」という事です。

今年7月から始まる予定の4K放送(試験放送)の電波枠は、CS1チャンネルのみです。
このCS1チャンネルをNHK、地上波放送局、衛生放送局、全ての放送局がシェアをして番組を持ち寄って放映するのです。

2016年に衛星を打ち上げる計画だそうですが、それでも8Kスーパーハイビジョンが1チャンネル。4K放送が3チャンネル(高圧縮をした場合の可能性として)。だとか。。

アナログ放送が地デジになってHD化した時とは、インフラ背景がまったく異なります。

SD→HDへの移行は、いやでも対応せざるを得ない環境ができてしまったのに対し、4K放送は、将来に渡って数チャンネルの枠しか確保されません。
つまり、殆どのテレビ番組制作は、これからもずっとHDメインで行われるという事です。

ただ、現状CS1チャンネルしか無いというのは、黎明期の視聴者ユーザーにとってはありがたい事だと思います。つまり、全ての4Kコンテンツがひとつのチャンネルに集中して視聴できるわけですから。
放送局同士も簡単に比較されてしまうので、竸って良い4K番組を作るようになるでしょう。
意外と、この事が幸いして4Kコンテンツの普及の後押しをするかもしれません。

でも、そうは言っても全放送局でたったひとつのチャンネルです。
4K番組は、特番としてそれなりの潤沢の予算で制作されると思いますが、その恩恵に預かれる制作関係者はほんの一部である、というより潤沢の予算も多大な労力の部分で消えてしまう、というのが現実かもしれません。


しかし、4Kコンテンツ制作はテレビ放送に限った話ではありません。

たとえば、大画面スクリーン(ジャイアントスクリーン)用のコンテンツです。
100インチとか150インチのような規模ではなく、10m、20mといった巨大スクリーンに複数台のプロジェクターを組み合わせて上映するもの。
テレビモニターを数台から数十台組み合わせて、大きな壁一面をモニターにしたものです。

この分野では、もともと高解像度映像のニーズがあった分野なので、4K関連製品の充実により活発に行われるようになって来たという実感があります。
(流行のプロジェクッションマッピングもその一例ですね。)
高画素コンテンツを実現するのには、CGに頼らざるを得なかったのが、4K、8Kカメラの登場で実写でも実現できるようになったのです。

そして、いくつかのプロジェクトに関わって痛感している事は、今あるカメラの16:9の画面に収まる構図の絵作りで撮影をしてはダメだという事です。

ジャイアントスクリーンの特徴として、視聴者の視野よりスクリーンサイズが大きいという特徴があります。
プラネタリウムのようなドーム映像では視聴者の真上、真横、真後にもスクリーンがありそこにも映像が流れます。
壁一面のモニターでは視聴者は中心周辺を主に観て、視界の外側の映像はなんとなくしか見えていないのです。
つまり、カメラマンは視聴環境を意識して「ゆるい構図」「ルーズな構図」で撮影しなければなりません。

写真教室の先生に見せたら「構図がまったくなってない!」と、お叱りを受けてしまうような構図が求められます。
フレームいっぱいに作りこまれた隙の無い構図では使えない映像となってしまうのです。

スクリーンのアスペクト比も超ワイドなパノラマ、縦長、ドーム、異型なものまで様々です。
ジャイアントスクリーン用コンテンツには、スクリーンに合わせた撮影センスがカメラマンに求められます。

また、そもそも今のムービーカメラが16:9等のワイドしか無いというのも変な話です。
16:9である必然性は、ジャイアントスクリーンにはまったくありません。

複数台のモニターやプロジェクターを組み合わせて、自由なアスペクト比の大画面が実現できるようになった現在、ムービーカメラでも自由なアスペクト比で撮影できる機種や組み合わせ可能な撮影システムが出てきて欲しいと思うのです。

今後、4K→8K という高解像度化は進むとして、テレビ番組とジャイアントスクリーンとで較べて、どちらに「必然性」があるかという考えれば後者にあるのは明らかです。

そうは言っても、市場規模から見て、家庭内の「テレビ」をなんとか4K→8Kという流れに乗せてメーカーは商売をしたいと考えるのは仕方無いのもわかりますが。。。
テレビ関係者から聞くセリフは、「より緻密に繊細になれば綺麗でしょう?」という言葉。

ジャイアントスクリーンの市場規模は小さいかもしれませんが、4Kコンテンツ制作に限った市場規模は、一握りの4Kテレビ番組制作と、同じような規模、もしくは大きいかもしれません。
映画に関しては、ハリウッド大作は別格として、それ以外ではどうでしょう?
PV制作も、未だDVD納品が主流でBD納品が稀という現状では、別次元の話でしょうか?
CM制作は言うまでもなく予算次第。
今だけの期間限定として4Kを普及させる為の4Kプロモーション。

市場規模という視点で、可能性があるとしたら、やはり今後はネットではないでしょうか?
電波枠の制限でどうにもならないテレビ放送よりも、がんばればなんとかなってしまうネットの方が将来性があります。

プロの場合、4Kへ移行する投資や労力の増大が大きな障壁になりますが、安価な4Kカメラの登場により、労力は「好きな事」で乗り越えてしまうアマチュアがどんどん4K作品を作りネットで配信して、4K市場を盛り上げてくれる気がします。
4K関連製品は、価格が安くなればどんどん普及していくでしょう。

一方、映像業界全体が大きく4Kへ流れを変えるという事は当分は無いという気がします。完パケの主流はHDのまま(SDも残る)、4Kは一部のみ。
3Dがもともとひとつのジャンルでしかなかったのと同じように、4Kもひとつのジャンルです。

「ジャンル」というより、「手法」というべきでしょうか?
4Kや8Kは「手法」が追加になった事として捉えて、冷静に取り組む必要があるのではと考えます。
今まで、RED ONEやEPICが多くの映像制作で使用されてきたのも、4K納品の為というより、RAW記録による後加工の柔軟性、クロップやデジタルズーム&パン、ハイスピード記録などのHDコンテンツ制作に応用できる「手法」が沢山あったからです。

「ジャンル」という視点で捉えるなら、スクリーンサイズと視聴環境の方を意識すべきです。必然性があれば4Kや8Kの「手法」を選ぶ。

スマホ、50インチTV、100インチTV、20m以上のジャイアントスクリーン、で同じコンテンツを見せるというのには無理があります。
しかし、一般的には技術論ばかり先行して、あるべきコンテンツの姿の議論は制作の担当者間レベルでしかなされていないのが現実です。

今は、4K や 8K といったくくりで議論されていますが、テレビの表示を緻密にする為の「4K/8K」なのか? 大画面上映を実現する手段の為の「4K/8K」なのか? 区別する必要がある気がします。
少なくとも、カメラマンはこの違いを意識して撮影しなければなりません。

と、グダグダと私が書いても、こんな事はまったく関係なく、4K関連の製品はどんどん登場して普及し、今までと同じような撮り方で撮影されて作品が作られて行くのだと思います。

100インチTVや200インチのプロジェクターが「より緻密に繊細になれば綺麗でしょう?」というニーズはマニア層では確実に存在しますから。

映像制作の現場でも、とりあえず、「4Kで撮れるなら4Kで撮っておこう、どうせHD納品だけど。」みたいなノリで、皆さん4Kカメラを使うようになる気がします。


さて、表題の「4K映像制作は映像業界の救世主になるのか?」
の関しては、現状では期待しすぎない方がいいのでは? って事でしょうかね。。
一方、4K機器メーカーは、それなりに売れて潤うのではないでしょうか?
数年後、いつの間にか4K関連製品が世に広く普及すれば、その時に映像業界の救世主になってくれる時代がくるかも?しれません。




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