瀬戸内海の海霧の名所、広島県三原市の筆影山へも立ち寄りました。
気象学で言う所の広義の「海霧」は、
「湿った温かい空気が、冷たい海水の上で冷やされて霧が発生する」
というものです。
夏場、東北~北海道の太平洋沖、寒流の影響で発生する海霧がこの代表例です。
一方、冬場に発生する「海霧」の発生条件は、上記とは真逆で
「湿った空気が放射冷却で冷やされて霧が発生する」
という雲海発生の条件と同じです。
しかし、この条件で発生するなら、今の時期は比較的温かい海水の上なら
至る所で、海霧が発生してもよさそうなのですが、「海霧」の名所と呼ばれる場所はかなり限定的です。
そして、「海霧」の名所は、その多くが河口付近にあります。
私は、今までいくつかの海霧の名所(三原、肱川あらし、紀伊半島田原、富山湾、弓ヶ浜)へ撮影しに行き、
”当たり”も”外れ”も経験してきました。川の河口という条件がどのように海霧の発生に関与しているのかが、
よく理解できないでいました。
盆地で発生する雲海であれば、川の水が、大気への湿気の供給源になっていると容易に理解ができますが、
海へ流れこむ河口に関しては、当てはまりません。
そして、水温は、川よりも海の方が高いのです。
ネットで調べても、なかなかすっきりする情報が得られませんでした。
ずっと、海霧発生の条件は、雲海発生の条件と同じだという事はわかっていても、
なぜ、限定された局所的にしか見られないのかがずっと謎のままだったのです。
しかし、今回海霧を眺めているうちに、私なりの答がひらめきました。
それは、河口だからと言って川の水にとらわれてはいけないのです。
川は水の流れるルートであると同時に、「内陸から冷たくて重い空気の塊が海へ流れ込むルート」だったのです。
同じ瀬戸内海の対岸でみられる「肱川あらし」は、内陸の大洲盆地で発生した霧(冷たくて重い空気の塊)が
肱川を下って海へ流れ込む現象です。
一方、三原は、沼田川河口で発生しますが、決して、内陸で発生した霧が川を下って海へ流れ込んでいるわけではありません。
この点が肱川あらしとは大きな違いです。
どう見ても、海面から湯気のように霧が発生しているのです。
「肱川あらし」でも良く観察するとわかるのですが、大洲盆地から海へ流れ込む霧と、新たに海面から湯気のように発生する霧の二種類が
混ざっている事に気づきます。
参考:以前撮影した「肱川あらし」
そして、霧が発生している海面は、河口周辺エリアに限定されます。
「なぜ、河口周辺エリアに限定されるのか?」を、流れこむ川の水(水温?)の影響だと考えてしまうからダメだったのです。
川の水(水温?)は関係なく、内陸から川を伝って海へ流れ込んだ「冷たくて重い空気の塊」が広がったエリアだと考えれば
全て説明ができます。
もともと海面の上にあった空気は放射冷却ではたいして冷やされないので、霧は発生しませんが、内陸でキンキンに冷やされた重い空気の塊が海面の上に流れ込む事で、温かい海面から湯気のような霧が発生する、こう考える事で、各地の海霧の名所で見てきた事も全て説明できます。
この条件が満たされれば、河口でなくても、ただの海岸でもいいのです。
実際、北国の海岸では、小規模な海霧=気嵐(けあらし)=蒸気霧は、河口に関係なく見れます。
↓海霧のエリアは河口の延長上に広がっている。
霧の無いエリアとの境がはっきりしているのは、海面の上の空気の層が違う(温度差がある)からと考えれば理解できる。
発生条件として「無風」というのは、冷たい空気の塊が拡散されないという事。
一方、冷たい空気の塊の中ではけっこう強い風を感じます。冷たい空気の塊が勢いをもって広がっているという事だと思います。
沼田川河口から
手前の河口直近は、水温の低い川の水の影響で逆に霧は発生していない。
川の水温が影響しなくなる沖で海霧が発生している。
川の水温がまだ高い秋の方が、川で発生する霧も加わり海霧も規模も大きくなる。
また、夜明け前と満潮が重なると川を遡った温かい海水の影響で、内陸で発生する霧の規模も大きくなる。これは肱川あらしでは規模が大きくなる条件として知られている事です。
これからの冬場は、河口での川の冷たい水の影響が無くなるという点で、朝方に満潮となる日の方が海霧の規模が大きくなると思われます。
ちなみに、この撮影した日は、朝方に干潮という悪条件でした。
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三原の海霧。海霧発生条件の不思議
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