今年を振り返って、今年の私のマイブームは、
高解像度大画面パノラマ映像と全天周ドーム映像
でした。
特に全天周ドーム映像に関しては、国際科学映像祭ドームフェスタのショートプログラムコンテストで水中ドーム映像が最優秀賞を受賞した事で、多くの反響を頂きました。
水中ドーム映像に関しては、賞を受賞したという事よりも、業界関係者に、実際に
ドームシアターで水中ドーム映像を観て、実際に水中に潜ってマンタやジンベエザメやイルカに囲まれている感覚を擬似体験、つまり、VR(ヴァーチャル・リアリティ)体験をして貰ったという事に大きな意義があったと感じています。
ドームシアターで星空を鑑賞するプラネタリウムは、元祖VR(ヴァーチャル・リアリティ)なのです。
かつては、星空鑑賞でしかVR体験できなかったドームシアターで、水中のVR体験ができる時代になったのです。
VR(ヴァーチャル・リアリティ)といえば、今年は新たな動きが始まった年のような気がします。
当初、ドーム映像の確認を目的として導入したVRヘッドマウントディスプレー「Oculus Rift DK2」。
これはまだ開発キットの段階でなのですが、DK1と併せて既に、世界で約20万台、日本には数千台単位で入っているという話です。
注目度はゲーム業界で高いようですが、純粋に映像を見るだけでもVR(ヴァーチャル・リアリティ)体験できるものなので、既にいろいろなイベントで体験会が行われているようです。
例えば、
楽天トラベル、VR HMDを使用した「実写ベース没入型VR」を観光分野で展開
上野の森美術館で開催中の「進撃の巨人展」360度体感シアター「哮」
現状のOculus Rift DK2 は、正直解像度的にはもの足りないのです。
それを差し引いても、迫力や没入感のあるVR体験ができる事が画期的です。
最近は展示会で4Kや8Kの高精細映像を見る機会が増えましたが、たとえ8Kの解像度であろうが、モニター/スクリーンサイズが小さい(150インチクラスでも)と、高精細である事は感心しても、映像の中の世界に没入してしまうよな感覚や驚きは得られません。
しかし、Oculus Rift DK2のような低解像度でも、映像が全視界に広がるで映像の中の世界に没入しその場所に居るかのような体験をし驚きや感動が得られるのです。
これはOculus Riftにかぎらず、ドーム映像にも言える事です。
話をちょっと変えてみます。
「東京スカイツリー」を麓から写真を撮ろうとすると、相当なワイドレンズで撮らないが構図に収まりません。
でも、ワイドレンズで無理やり構図に収めた写真を見ると、「東京スカイツリー」が小さく見えて、現場で感じた”体を仰け反って見上げてやっとてっぺんが見えた”という感覚がまったく伝わりません。
でも、「Oculus Rift」なら”体を仰け反って見上げてやっとてっぺんが見えた”という動作を含めた感覚を写真や映像で伝える事ができるのです。
これは、今まで平面で表現していた写真や映像の表現とはまったく異なる映像表現です。
つまり、「VRで写真表現・映像表現が変わる」のです。
今年、VRとの相乗効果で活気づいているのが、360度カメラがあります。
上下、左右、前後、つまり、全方向の写真・動画が記録できるカメラが各種登場してきました。
身近な360度写真の実例といえば、Google Street Viewです。
360度の写真が撮れるカメラや手法は、実はかなり昔から存在します。私も20年位前に、360度全方位の水中写真を撮った経験があります。
今までの、360度写真や動画の視聴は、パソコン上の対応アプリでマウスでグリグリ視野を回転させながら360度の映像を観るものでした。
それが「Oculus Rift」のようなVRヘッドマウントディスプレイ(VR HMD)を使う事で、実際の景観を頭を振って見渡すように、「ヘッドトラッキング」で360度の映像を観る事ができるのです。
360度カメラとVR HMDの組み合わせで、実写によるVR(ヴァーチャル・リアリティ)が可能になったのです。
ただ、まだ課題が多いのも事実です。
VRヘッドマウントディスプレイ(VR HMD)の解像度は、4K、8Kの汎用小型デバイスが登場すればいずれ解決します。
360度カメラの画素数も、今後どんどん高画素化するでしょう。
問題は、360度カメラによる撮影方法です。
上下、左右、前後、全方向が映るという事は、撮影者自身が、どこかしらに映り込んでしまいます。
黎明期の今は、その欠点も含めて面白がられてウケルでしょう。
しかし、コンテンツ制作側としては全方向が映るという事はかなりの制約になります。
また、コンテンツとして、本当に全方向の映像が必要なのか? という疑問もあります。
制作側として、見せたくないものまで映ってしまうのです。
メイキング映像としては面白い、というレベル。
Google Street Viewのような「情報」コンテンツは、
全方向の映像を必要に応じて確認できる事に意義のあるコンテンツです。
一方、ドームシアターで上映される「エンターテイメント」コンテンツでは作品全編において全方向の映像は必要無いと思っています。
制作側が、作品の所々にカメラワークや演出によって、観客の視線を誘導させればいいのではないでしょうか?
作品全編通して観客が頭を上下左右に振りながら観なければいけないなんて現実的ではありません。
所々、上下左右に振らせる山場を作り手が演出すればいいのです。
全方位を効果的に魅せるシーンが少しだけあればいいのです。
今年、フルドーム映像作品を沢山視聴して感した事です。
人間の脳は、錯覚しやすいものです。
なんでもかんでも360度全方位で構成しようとするのではなく、「錯覚」させ、ごまかすテクニックが「エンターテイメント」コンテンツの制作では重要だと感じています。
来年は、360度全方位カメラで「情報」コンテンツが数多く作られ、VR体験できる場も増えてくると思います。
一方、長編の「エンターテイメント」コンテンツがどのように制作されていくのか?
個人的に非常に興味のある所です。
ところで、「360度カメラ」という表現には、
円周魚眼のような、半球の「360度カメラ」と
上下、左右、前後の全球の「360度カメラ」が、混同されています。
業界的には、正しい表現の使い分けがあるわけではなさそうです。
プラネタリウムのようなドーム映像は、「全天周」と表現します。
天周は全てある、(下側は無いけど、、、)という意味、つまり「半球」という事です。
全方位の「360度カメラ」は、「360°+360°」とか「 360°全球」という表現を見かけます。
作品コンテンツは
ドームシアターのような劇場上映では、「全天周」
VRヘッドマウントディスプレイ(VR HMD)で視聴するものは「全球」
このような棲み分けが現実的なのでしょうか?
↧
VRで変わる写真表現・映像表現
↧